第1章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる**
「……なんで、離してないんだよ」
「え?」
「普通、もう少し隙間空けるだろ」
「でも、部屋狭いし……離してもそんなに距離変わらないよ」
「あるだろ。狭くても限界まで壁に寄せるとか」
つい言い方がきつくなった。
が、浴衣の袖をきゅっと掴む。
叱られたみたいに眉を下げて目を伏せた。
「……そんなに、嫌だった?」
「そうじゃ――」
「気づかなくてごめんね。伏黒くん、狭いと寝にくいよね……」
そうじゃなくて。
この距離で、無防備に眠るお前の隣で。
俺が何も思わないと本気で信じ切っている、その無神経さが腹立たしいんだ。
必死に冷やしたはずの頭が、また急激に熱を持っていく。
「……私のお布団、壁際に――」
が布団の端へ手を伸ばす。
けれど、俺は気づけばその手を掴んでいた。
「……伏黒くん?」
が目を丸くしてこっちを見る。
「いい。このままで」
「でも、さっき……」
「いいって言ってるだろ」
いいわけない。
この距離で眠れるわけがない。
隣にがいるとわかっていて、何も考えずにいられる自信なんてない。
それでも、ここで離されたら。
何か決定的なものまで、俺の手から遠ざけられるような気がした。
自分で言ったくせに、引き止めるなんて。
完全に矛盾している。
(俺は、どうしたいんだ……)
頭と感情がちぐはぐで、自分でもどうしていいかわからない。
ふと、まだの手を掴んだままだと気づいた。
「……わ、悪い」
パッとその手を離すと、は小さく首を振る。
「ううん。大丈夫」
はそれ以上は何も言わず、座卓の上に置かれていたリモコンへ手を伸ばした。
「あ、テレビつけてもいい?」
「……好きにしろ」
「うん」
テレビがつくと、部屋に場違いなくらい明るい声が流れ始めた。