第2章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる II**
「まあまあ。朝からそんな怖い顔しないの」
五条先生は俺の横をすり抜けるようにして、眠っているのそばにしゃがんだ。
「ー、朝だよー」
は小さく身じろぎしただけで、まだ目を覚まさない。
「朝ごはんだよー。起きないと、僕が全部食べちゃうよー」
そう言いながら、五条先生の手がの肩へ伸びる。
俺は考えるより先に、その手を弾いていた。
ぱしん、と乾いた音が部屋に響く。
五条先生の手が、の肩の手前で止まった。
「に触んな」
自分でも驚くくらい、低い声だった。
五条先生は俺を見てから、何も言わないままへ視線を落とす。
ほんの一瞬、その目がの首筋で止まった気がした。
それから、俺に叩かれた手を大げさにさすった。
絶対痛くねーだろ。
「恵にそんなこと言う権利、あったっけ? は、恵のものじゃないでしょ」
そんなことはわかっている。
昨晩、は俺のことを考えると言っただけで。
彼女の心はずっと、五条先生にあるのだから。
それでも、この人にだけは言われたくなかった。
「……でも、五条先生のものでもないでしょう」
悔しくて、吐き捨てるようにそう言った。
この人は、が自分を好きだと知っていて。
それを当たり前みたいに受け取っている。
俺が眠っている間に、二人の間で何があったのかはわからない。
それでも、が五条先生を選んだと決まったわけじゃない。
すると、五条先生の口元がわずかに動いた。
笑ったのか。
それとも、笑い損ねたのか。
「まあ、それはそうね」
その返事でわかった。
少なくとも、五条先生は否定しなかった。
はまだ、この人のものじゃない。
「だからさ、あんなこと言っちゃったんだよねぇ」
「……何の話ですか」
「さあ? こっちの話」
その言葉の意味を問い返すより先に。
「……ん……」
が身じろぎをして、そのまつ毛が微かに揺れた。
俺も、五条先生も。
同時に動きを止める。