第1章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる**
「ご、ごめん……! お見苦しいものを……」
「俺に謝るな」
こいつは本当に、俺をただの「同級生」としか見ていない。
もし、これが五条先生だったら ……同じことはしないだろう。
俺の前では、平気で隙を見せる。
それが、どうしようもなく悔しくて。
同時に、その無防備さを独り占めしていることに、ひどく醜い優越感を感じている自分がいた。
「……あ、伏黒くん」
がおずおずと声をかけてきた。
壁を向いたまま、振り向かずに「なんだ」とだけ返す。
「私……先にお風呂、行ってくるね」
背後でガサガサと音がした。
たぶん、宿に備え付けの浴衣やタオルをまとめているんだろう。
ぱたぱたと足音がして、入口のドアが閉まる音がした。
が部屋を出て行って、ようやく静寂が戻る。
「……」
俺は壁から視線を外し、誰もいなくなった部屋の真ん中に座り込んだ。
「――はぁっ」
腹の底に溜まっていた熱い空気を、全部吐き出すように長いため息をつく。
濡れた制服が、今になって気持ち悪いほど肌にまとわりついていることに気づいた。
まだ、心臓の鼓動が速い。
さっき、一瞬だけ見えた。
濡れたシャツの下から覗く、細い肩とか下着、白い肌の輪郭が――
ダメだ、勝手に頭の中に浮かんでくる。
「何やってんだ、俺は……」
濡れた髪を、乱暴に掻き毟る。
が戻ってくるまでに、このたちの悪い熱をどうにかしなければならない。
そうじゃないと――
この狭い部屋の中で、本当に取り返しのつかないことをしてしまいそうだった。