第4章 【五条悟】勿忘草の悪魔**
「これには海よりも深く、山よりも高い理由があるんです!!」
「ほう? 理由」
「きょ、今日、お昼に先輩とランチに行ってきて……あ、あのっ、テーブルの上に焼きたてのパンあります! 美味しかったから、五条さんにお土産です!!」
私はピシッと尻尾の先をダイニングテーブルの方へ向け、必死にパンの存在をアピールした。
どうかパンで今見たことを忘れてほしい。
もう、これ以上追及しないでほしい。
「へえ、パン。ありがとう……で?」
ですよね。
パンひとつで、今見た光景がなかったことになるわけがない。
逃げ道を塞ぐように、五条さんは私との距離を詰めてきた。
「……せ、先輩がですね」
「先輩が?」
五条さんに促され、仕方なく続きを口にする。
「『これ見てお勉強しなさい』って、動画を送ってきて……その、男の人を、た……勃たせるには、これがいいって……」
「……」
「だ、だから! 私は真面目にお仕事のお勉強をしていただけで!!」
私の必死の言い訳を聞いて、五条さんの視線がクッションの下に押し込まれたスマホへ向く。
「なるほど。その真面目なお勉強の結果、一人で発情しちゃったってわけ?」
「ぴゃっ!?」
どストレートに図星を突かれ、自分でも聞いたことのない声が出てしまった。
尻尾も恥ずかしいのか、小さく丸まっている。
「悪かったね、そんなとこ邪魔しちゃって」
「あ、ぅ……」
「いいよ、続けて」
「…………、はい?」
つ、続けて……?
なにを?
さっきの、あれを!? 五条さんの目の前で!?!?
「む、無理ですよぉ……っ!!」
何を言ってるんですか、五条さんは!
いくらなんでも、そんな公開処刑みたいなことできるわけがない。
すると、五条さんはつまらなそうに、ため息をついた。
「えー、残念。が一人でしてるところ見たら、僕も興奮するかもしれないのに」
「…………えっ?」
小さく丸まっていた尻尾が、ピクッと反応する。