第4章 【五条悟】勿忘草の悪魔**
「前に、精気の使い道を探ろうとした淫魔が何人か、そこへ忍び込んだらしいの」
「その人たちは、一体何を見たんですか?」
「わからないわ。だって……それきり、誰もその人たちを見かけてないんだもの」
「そ、そんな……」
先輩の言葉に、私は思わず息を呑んだ。
美味しいはずのランチプレートが、急に味のしない砂みたいに感じた。
「いい、新人ちゃん。会社には、会社のやり方がある。私たちは言われた通りに精気を集めて、決められた分を提出する。それでお給料をもらう。……それだけよ」
「……」
「せっかく専属契約を結べたんだし。これ以上余計な詮索はしない方がいいわ。これは先輩からのアドバイス」
「……わ、わかりました」
私はこくりと頷いた。
本当は、わかったとは言えなかったけど。
地下の管理区画。
会社に集められる精気の行方。
使い道を探ろうとして、いなくなった淫魔たち。
聞けば聞くほど、当たり前だと思っていた会社のことが、急に怖いものみたいに思えてきた。
「あ、すみませーん。お水もらえますかー?」
近くを通りかかった店員さんに、先輩が声をかける。
そのあまりに平然とした横顔を見て、これ以上は聞くのをやめた。
先輩はきっと、ずっとこうやって働いてきたのだ。
見ないふりをして。
聞かないふりをして。
それが、淫魔として生き残る方法なのだと。
私は、淫魔だ。
どこから生まれてきたかもわからない。
ただ、人間から精気をもらうための存在で。
それが仕事で。
それが当たり前だと教わってきた。
でも。
もし、その当たり前の先に、誰かが苦しんでいるのだとしたら。
私たちが集めた精気が、何かよくないものに使われているのだとしたら。
「……」
五条さんの顔が、ふと頭に浮かんだ。
意地悪で。
笑いながら、さらっと怖いことを言って。
私じゃ勃たないなんて、ひどいことを言う人で。
だけど、あの人はたぶん、私には見えていなかったものを見ているんだろう。
一口、キッシュを口に運ぶ。
けれど、さっきまで美味しかったはずのそれは、なかなか喉を通ってくれなかった。