第4章 【五条悟】勿忘草の悪魔**
「新人ちゃん、問題は制服じゃないから」
「……え?」
「始末書の書き方なんて、後で私がいくらでも教えてあげるわよ。それよりも……」
先輩はテーブルに肘をつき、真剣な目で私を覗き込んだ。
「淫魔がキスだけで気絶するほどのエネルギー量なんて、普通はあり得ないのよ。あんたが慣れてないにしろ、どんなに精力絶倫な男でもね」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。よっぽど魂そのもののエネルギーが膨大じゃないと、そんなことにはならないわ。……それだけの精気、並の人間が持ってるはずないもの」
先輩は少し声をひそめ、周りに聞こえないように顔を近づけた。
「……その契約者さん、呪術師なんじゃないかしら?」
「じゅじゅつし……」
きょとんとしていると、先輩はあきれたように小さくため息をついた。
「知らないの? 呪力を使って、私たちみたいな人外や呪いを祓うのが仕事よ。要するに、私たちの天敵中の天敵」
「て、天敵……」
「ええ。呪術師なら、精気が異常に多いのも納得がいくわ。でもね、もし相手が本当に呪術師なら、新人ちゃんなんて一瞬で祓われて終わりよ?」
先輩の言葉に、私は昨日の夜の五条さんの言葉を思い出した。
『僕、君のこと祓わないといけないからさ』
『被害が出てるなら、僕はそういうのをどうにかする側だから』
呪術師。
それが五条さんのお仕事の名前なんだ。
私は今、五条さんに祓われないための対価として、「協力者」になっている。
もし、契約者が呪術師だと会社にバレたら。
私が会社の情報を流すことになっているとバレたら。
たぶん、私はクビじゃ済まない。
でも、だからといって五条さんに嘘をついたり、会社の味方をしたりすれば。
その時は、五条さんに祓われる。
(……あれ?)
会社にバレても消される。
五条さんを裏切っても祓われる。
(どっちにしても終わりでは……!?)
一瞬にして最悪の想像が頭を駆け巡り、私は滝のような冷や汗を流しながら、全力で首を横に振った。