第4章 【五条悟】勿忘草の悪魔**
「……ほんと、何も知らないんだね。は」
顎を五条さんの大きな手でぐいっと持ち上げられた。
息遣いだけで、顔がすぐ近くにあるのがわかる。
「んっ……」
息を吸う暇もなかった。
唇が触れた瞬間、身体に熱いものが流れ込んでくる。
私……キスしてる。
今日初めて会った人なのに。
初めてのキスなのに。
不思議と嫌じゃなかった。
五条さんの唇は、思っていたより柔らかくて。
それに、近くにいるだけでくらくらするくらい、いい匂いがした。
(……キスって、こんな感じなんだ)
初めてのキスに意識を奪われていると、突然唇を食むように塞がれた。
驚いて開いた隙間から、するりと熱い舌が侵入してくる。
「……っ!? ん、んぅっ……!」
戸惑う私の舌を五条さんはいとも簡単に捕まえて、深く絡め取る。
上顎をなぞり、歯列を舐め上げられた。
「んちゅ……っ、ぁ、だめ、んぅ……っ」
粘膜がじかに触れ合い、舌と舌が深く絡み合うたびに、精気が一気に流れ込んでくる。
「……っ、ふ、あっ……はぁっ……!」
五条さんの唇が少しだけ離れたが、呼吸を整える暇もなく、すぐにまた違う角度で深く塞がれた。
精気って、甘い蜜みたいに、少しずつ吸い上げるものだと思っていた。
なのに、五条さんのそれは違う。
まるで、巨大な波に丸ごと飲み込まれるみたいだった。
熱くて、眩しくて、重たくて。
私の身体では、とても受け止めきれない。
これが、五条悟という人の精気。
「ほら、ちゃんと飲んで、」
「……っ、ん、まってっ……!」
そういえば、先輩が言っていたじゃないか。
契約者さんの精気が強いって。
こんな大口案件、普通は新人に任せないって。
大口案件。
その意味を、私は今さら思い知った。
「……?」
名前を呼ばれたのに、返事ができない。
身体に力が入らなくて、羽も、尻尾も、指先も。
全部がふわふわしていた。
視界もぐるぐるしてる。
あ、だめかも。
部長。
この場合は、労災っておりますか……?
そこで、私の意識はプツリと途絶えた。