第4章 【五条悟】勿忘草の悪魔**
「お、お恥ずかしながら!私は初仕事で、け、経験もないですが……せ、せ、精一杯頑張らせて――」
「しないよ」
「えっ?」
五条さんはバインダーをパタンと閉じると、ソファの横に放り投げる。
そして、なんでもないことのように言い放った。
「だって僕、君じゃ勃たないし」
頭の中が、真っ白になった。
え。
今、なんて?
勃たない。
それってつまり、私に魅力がないってことで……。
淫魔なのに?
こんなえっちな服まで着ているのに?
「そ、そんな……っ」
立派な淫魔を目指しているのに、初対面で、しかも自分の契約者さんにそんなことを言われるなんて。
ショックすぎて、尻尾が絨毯の上にべちゃっと力なく倒れ込む。
「わ、私が処女だからですか!?」
「いや、淫魔なのに処女って可愛いと思うよ?」
「だったら!!」
「あー、僕眠い。マニュアルの確認はここまでね」
「待ってください! まだ、終わっていません!!」
立ち上がろうとする五条さんを、私は慌てて引き止めた。
えっちをしないのはいい。
魅力がないのは、すごくショックだけど。
というか、ちょっとだけ安心したかも。
「ま、まだ専属契約の手続きが終わってません! 最初に少しだけでも精気をいただかないと、契約が成立しないんです!」
「えっちしないのに、どうやって供給すんの?」
「だ、だから……その、最低限の粘膜接触……つまり……」
「つまり?」
「キ、キス……とか」
自分で言っておきながら、顔が一気に熱くなった。
キスだってほんとは平気じゃない。
初めてなんだもん。
「……キスねぇ」
「最低限の供給なら、たぶんそれで足りるはずなので! お願いします!」
覚悟を決めて、ぷるぷると唇を突き出した。
「ど、どうぞ……!」
「……ほんと、君ってさ」
呆れたようなため息が聞こえる。
やっぱり、五条さんは私と粘膜接触するのが嫌なのだろうか。
でも、契約のためにはキスだけでもしてもらわなければ。
「……わかった。目、瞑って」
「え……?」
「いいから」
そう言われて、私は慌ててぎゅっと目を瞑る。