第4章 【五条悟】勿忘草の悪魔**
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「……というわけで。これから、専属契約に関する基本事項のご説明をさせていただきます」
私は五条さんの部屋のふかふかの絨毯の上に正座をして、空間からポンッと取り出した黒い革張りの、無駄に分厚いバインダーを広げた。
会社支給の『専属契約マニュアル』だ。
「えー。それ、明日でよくなーい?」
ソファに深くもたれかかった五条さんが、つまらなそうに長い足を組んだ。
壁にかかった時計の針は、すでに深夜一時を回ろうとしている。
確かに眠い時間かもしれないけれど、後回しにはできない。
「すぐ済みますから! 契約に関わる一番大事なことなんです!」
「こんな時間に、そんな服着て正座してる悪魔に言われても、ぜーんぜん説得力ないんだけど」
「ふ、服は関係ありません! それに悪魔じゃなくて、淫魔です! とにかく、専属契約を結んだ以上、お互いのルールの確認は必須事項です!」
「はいはい、わかったって」
そう言って、五条さんはやる気なさそうに頬杖をついた。
全然真面目に聞いてくれていない気がするけど、ここで引き下がるわけにはいかない。
私はコホンと一つ咳払いをして、バインダーのページをめくる。
「まず、第一条。『専属契約期間中の居住、および秘匿義務について』。契約者は、専属淫魔に対し安全な居住空間を提供し、その存在をみだりに他言してはならない……とあります」
「それはもうクリアしてるでしょ。僕の家、セキュリティ完璧だし。そもそも僕に祓われるはずだった淫魔を匿うんだから、誰にも言うわけないし」
「それもそうですね」
「あ、寝る場所はどうする? 一緒に寝る?」
「だ、だめです! 淫魔は契約者さんと適切な距離を保ち、不用意にパーソナルスペースを侵してはいけないと、マニュアルの3ページに書いてあります!」
私がバシッとマニュアルの該当箇所を指差すと、五条さんは「淫魔なのに?」と肩を震わせて笑った。
「じゃあ次。第二条は?」
「あ、はい。えっと、第二条はですね……」
次の項目を見た瞬間、それ以上読み上げることができなくなった。
「どうしたの?」
「い、いえ……」
私はマニュアルを胸に抱え込んだ。
ここも説明しなきゃだよね。
何なら一番大事なところだし。