第4章 【五条悟】勿忘草の悪魔**
私は、誰かに害を与えるためにここへ来たのだろうか。
契約者さんの欲を引き出して、精気をもらって帰ってくる。
それが淫魔の仕事だと教わった。
「精気を、少しいただくのは……いけないことだったんですか?」
「……」
「命までは取らないから、大丈夫だって……」
そう言いながら、自分の声がどんどん小さくなっていくのがわかった。
大丈夫。少しいただくだけ。
その対価として、人間も気持ちいい思いができるし、喜んでいる。
先輩はそう言っていた。
でも、目の前の五条さんは、それはいけないことで私を祓うと言う。
仕方ない。
悪いことをしたなら、罰を受ける。
人に害を与えたなら、祓われる。
きっと、そういうものなのだろう。
「……わかりました。もし、いるだけで誰かに迷惑をかける存在なら……」
「どうぞ、祓ってください。できれば、あまり痛くしないでもらえると助かります」
尻尾が足元で力なく垂れる。
私は胸の前で両手を組み、ぎゅっと目を瞑った。
「なにそれ」
五条さんの声から、さっきまでの軽さが消えていた。
怒らせてしまったのかと思って、薄目を開ける。
「あ、す、すみません。淫魔なのに、わがままを言って」
「いや、そうじゃなくて」
「痛いのは、少し苦手で……でも、我慢します。お仕事も失敗しましたし、迷惑もかけたなら、仕方ないので」
「……は?」
五条さん、やっぱり怒ってる?
目隠しのせいで、相変わらず表情はよくわからない。
ただ、もう笑っていないことだけはわかった。
「君、さっきから何なの」
「え……」
「祓うって言われて、普通そんな素直にお願いしますとか言う?」
「もっと、抵抗した方がいいのでしょうか? そのほうが、燃える……というやつですか!?」
「違うわ」
「でも……五条さんは、祓うのがお仕事なんですよね?」
「それは、そうなんだけどさ……」
五条さんは困っているようにも、苛立っているようにも見える。
でも、その苛立ちは私に向いているのとは少し違う気がした。