第1章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる**
旅館には、すでに同じことを考えた人が集まり出していた。
(部屋があるといいが……)
を見ると、寒さのせいか少し肩を震わせている。
早く休ませてやりたい。
しばらくして、受付の女性が申し訳なさそうに頭を下げた。
「電車が止まった影響で、現在お部屋が一つしか空いていなくて……」
一部屋。
その言葉に、思考が一瞬止まった。
まじか……。
「……どんな狭い部屋でも構いません。なんとか、二部屋用意できないですか」
冷静を取り繕って声を絞り出したが、自分でもわかるくらい余裕がない。
「それが、特別室も、すべて他のお客様で埋まってしまっておりまして……」
女性は困った顔で、もう一度深く頭を下げた。
「……そう、ですか」
さすがに、物理的に部屋がないならどうしようもない。
片っ端から電話して、別の宿を探すか。
けど、考えることはみんな同じだ。
時間が経てば経つほど、空きはなくなる。
最悪、だけここに残して――
頭の中で色々考えていると、がおずおずと口を開いた。
「……あの、伏黒くん」
「なんだ」
「私……伏黒くんと一緒の部屋でも、全然平気だよ?」
「は?」
何を言っているんだ、こいつは。
俺が睨みつけてしまったせいで、はびくっと肩を揺らした。
それから、申し訳なさそうに目を伏せる。
「……ごめんなさい。伏黒くんは、私と一緒だと嫌かもしれないけど……」
「そういうことじゃないだろ」
つい声を荒げてしまった。
嫌なわけがない。
むしろ、その逆だ。
だから、ダメなんだ。
こいつは本当に、何もわかっていない。
相手が男だという警戒心がないのか。
それとも、俺がそういう対象から完全に外されているのか。
たぶん、両方だろうな……こいつの場合。