第1章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる**
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運命だのなんだの、そんな言葉を信じる気はない。
ただ、どうしようもなく最悪な偶然というものは存在する。
あの日の雨は、間違いなくその一つだった。
「……完全に止まったな」
駅の電光掲示板に表示された「運転見合わせ」の赤い文字を見て、ため息が出る。
窓の外は、視界が白くなるほどの土砂降りだった。
とある地方での任務帰り。
駅まで戻ってきたところで、記録的な豪雨に足止めを食らった。
今日中に電車が動く見込みはない。
補助監督にも連絡を入れたが、道路もあちこちで冠水していて、車を回すのは無理だと言われた。
隣で、が不安そうに外を見ている。
駅まで歩いただけでも、傘なんてほとんど役に立たなかった。
二人とも制服も髪も、とっくにずぶ濡れだ。
「伏黒くん、雨すごいね。帰れそうにないね……」
「ああ。今日は無理そうだな」
駅の待合室は、すでに足止めを食らった人たちで溢れかえっている。
湿気と人の熱気で息苦しい。
ここに朝までいるのは現実的じゃない。
俺はスマホで、近くの宿泊施設を検索した。
「歩いてすぐのところに旅館がある。とりあえずそこ行くぞ」
「……うん」
旅館までは、歩いて十分もかからない距離だった。
それでも、外に出た瞬間、雨が容赦なく叩きつけてくる。
二人で小走りに雨の中を進み、ようやく旅館に辿り着いた。
そのままフロントへ向かう。
「今から、部屋二つ用意できますか?」
受付の女性は「少々お待ちください」と言って、カタカタとパソコンを操作し出した。