第4章 【五条悟】勿忘草の悪魔**
暗い。
目が回る。
黒い影に引きずり込まれる直前、私は必死にさっきの言葉を頭の中で繰り返した。
微笑む。
甘く名乗る。
そして、余裕たっぷりに。
こんばんは。
あなたの精気をいただきに参りました。
今夜は、私と気持ちいいことしましょ。
大丈夫。
できる。
私は淫魔。
立派な淫魔。
――の、はずだった。
次に目を開けた時、私は知らない部屋の床に、思いきり尻もちをついていた。
「いっ……たぁ……」
情けない声が漏れる。
羽は片方だけ変な方向に曲がっているし、尻尾は足に絡まっている。
おまけに、さっきまで完璧に練習していた台詞は、頭の中から綺麗に吹き飛んでいた。
最悪だ。
初仕事なのに、登場から失敗した。
視線を感じて顔を上げると、部屋の奥に男の人がいた。
白い髪。
黒い目隠し。
長い手足。
ソファに座ったまま、片手にスマホを持って、こちらを見ている。
目隠しをしているのに、なぜか目が合ったような気がした。
この人が、五条悟さんなんだろうか。
急いで立ち上がろうとして、また尻尾を踏んだ。
「いっ、た……!」
男の人は私の登場に驚いたのか、固まっている。
ま、まずい!
引かれている!
えっと、最初はなんだっけ……?
背筋を伸ばして。
羽を広げて。
尻尾をどうにか足からほどいて。
精一杯、余裕があるふりをして。
「こ、こんばんは。あなたの……えっと、せ、精気をいただきに参りました」
噛んでしまった。
先輩。
ごめんなさい。
私は心の中で謝りながら、それでも最後まで言い切った。
「今夜は、私と気持ちいいことしましょ!」