第4章 【五条悟】勿忘草の悪魔**
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深夜零時まで、あと十五分。
私は控え室の鏡の前で、もう何度目かわからない深呼吸をした。
角、よし。
羽、よし。
尻尾……は、さっきから落ち着きなく左右に揺れている。
「大丈夫。私は淫魔。立派な淫魔。ちゃんと誘惑できる。たぶん。きっと。できれば……」
「できれば、じゃないのよ」
背後から呆れた声が飛んできた。
振り返ると、先輩が腕を組んでこちらを見ている。
粟色の長い髪に、艶やかな唇。
背中の羽も、頭の角も、私のものよりずっと綺麗で、尻尾まで色気たっぷりに揺れていた。
いかにも、立派な淫魔。
私とは大違いだ。
「新人、震えてるわよ」
「震えてません」
「尻尾がめちゃくちゃ震えてる」
「これは……武者震いです」
「……戦場に行くんじゃないのよ」
先輩が深いため息をついた。
その拍子に、甘い香水みたいな匂いがふわりと漂う。
同じ淫魔の私でも、ドキドキしてしまう。
私も先輩を真似して、さっきから胸元を寄せたりしているけれど、どうにもそれらしくならない。
鏡の中の私は、どう見ても悪魔というより、発表会の前に緊張している子供だった。
「いい? 淫魔の仕事は、契約者の欲を引き出して、精気をもらって帰ってくる。それだけ」
「はい」
「難しく考えなくていいの。男なんて、少し近づいて、少し甘い声を出して、少し触れば大体どうにかなるんだから」
「少しが三回も出てきました」
「大事なことだからよ」
「なるほど……」
少し近づく。
少し甘い声を出す。
少し触る。
よし。
覚えた。
たぶん、これで大丈夫。
たぶん。
「あ、先輩」
「なに」
「もし、契約者さんが怒ったらどうすればいいですか?」
「怒らせる前に相手の理性を溶かすの」
「理性を……溶かす……」
言葉にすると、とても難しそうだった。