• テキストサイズ

【呪術廻戦/短編集R18】夜更けの花屋は恋を売る

第4章 【五条悟】勿忘草の悪魔**


***



深夜零時まで、あと十五分。
私は控え室の鏡の前で、もう何度目かわからない深呼吸をした。


角、よし。
羽、よし。
尻尾……は、さっきから落ち着きなく左右に揺れている。



「大丈夫。私は淫魔。立派な淫魔。ちゃんと誘惑できる。たぶん。きっと。できれば……」

「できれば、じゃないのよ」



背後から呆れた声が飛んできた。
振り返ると、先輩が腕を組んでこちらを見ている。


粟色の長い髪に、艶やかな唇。
背中の羽も、頭の角も、私のものよりずっと綺麗で、尻尾まで色気たっぷりに揺れていた。

いかにも、立派な淫魔。
私とは大違いだ。



「新人、震えてるわよ」

「震えてません」

「尻尾がめちゃくちゃ震えてる」

「これは……武者震いです」

「……戦場に行くんじゃないのよ」



先輩が深いため息をついた。

その拍子に、甘い香水みたいな匂いがふわりと漂う。
同じ淫魔の私でも、ドキドキしてしまう。


私も先輩を真似して、さっきから胸元を寄せたりしているけれど、どうにもそれらしくならない。

鏡の中の私は、どう見ても悪魔というより、発表会の前に緊張している子供だった。



「いい? 淫魔の仕事は、契約者の欲を引き出して、精気をもらって帰ってくる。それだけ」

「はい」

「難しく考えなくていいの。男なんて、少し近づいて、少し甘い声を出して、少し触れば大体どうにかなるんだから」

「少しが三回も出てきました」

「大事なことだからよ」

「なるほど……」



少し近づく。
少し甘い声を出す。
少し触る。

よし。
覚えた。

たぶん、これで大丈夫。
たぶん。



「あ、先輩」

「なに」

「もし、契約者さんが怒ったらどうすればいいですか?」

「怒らせる前に相手の理性を溶かすの」

「理性を……溶かす……」



言葉にすると、とても難しそうだった。
/ 225ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp