第4章 【五条悟】勿忘草の悪魔**
「それで、僕にそのお鉢が回ってきたってわけね」
「五条さんであれば、仮に契約が成立しても問題ないだろうと……夜蛾学長が」
「学長、僕の扱い雑じゃない?」
高速を降りた先の信号で、車が止まった。
そのタイミングで、伊地知が胸ポケットから小さなメモを取り出す。
「こちらが、そのアドレスです」
きっちり四つ折りにされた紙を受け取って開く。
そこには、意味のないアルファベットと数字の羅列が書かれていた。
僕はメモを片手に、スマホを取り出す。
宛先欄に、書かれている文字列を打ち込んだ。
本文は空のまま。
そのまま、送信。
数秒後、スマホがブルっと震えた。
差出人不明。
件名 縺契隱咲■譁ヲ逢悪
本文は、たった一行だった。
――契、約……し〼か?
「お、ほんとに返ってきた。文字化けしてるけど」
「えっ、もう!?」
「悪魔も仕事が早いんだねぇ」
僕は返信欄を開いて、『契約します』と打ち込んだ。
送信っと。
あとは、これで深夜零時に悪魔が来るのを待つだけか。
場所はどうしようかな。
高専には結界があるし……。
悪魔だか呪霊だか知らないけれど、変に警戒されて逃げられても面倒だな。
だったら――。
「伊地知」
「はい」
「高専じゃなくて、僕の都内のマンションに向かって」
「ご自宅で祓うおつもりですか?」
「僕の部屋なら帳も必要ないし。それに、今日はさっさと祓ってゆっくり休みたいんだよね」
そう言って、欠伸が出た。
手の甲で口元を隠しながら、窓の外へ視線を向ける。
窓ガラスの向こうで、東京の灯りがぼんやり流れていく。
残っていたいちごミルクを吸い切ったところで、ストローがずず、と間抜けな音を立てた。
深夜零時まで、あと少し。
せめて、寝不足になるほど面倒な相手じゃないといいんだけど。