第4章 【五条悟】勿忘草の悪魔**
「……という都市伝説が、若い人の間で広まっていまして」
伊地知がそう切り出したのは、任務帰りの車内だった。
夜の高速道路を走る車の中で、僕は後部座席に深く沈みながら、コンビニで買ったいちごミルクをストローで吸う。
「今どきの悪魔ってメールなんだ。LINEでも、インスタのDMでもなくて? 既読つけたくないタイプ?」
「そこは私にも……」
伊地知が、乾いた笑いを浮かべている。
まったく。
僕の渾身のボケに対して、その反応はないでしょ。
働きすぎなんじゃないの、伊地知。
僕は「はいはい」と返事をして、ストローから口を離す。
「それで?」
「あ、はい。そのアドレスに空メールを送ると、まず返信が来るそうです」
「空メールって。懐かしいねー」
「はは……そうですね。返信内容は、毎回同じらしく……」
伊地知は、ちらりとバックミラー越しにこちらを見た。
「“契約しますか?”と」
「壺でも買わされんの?」
「壺で済めばいいんですが」
「で、それに返事すると?」
「“契約します”と返した者のもとへ、深夜零時、悪魔が現れるそうです」
窓の外を流れていく街灯の光が、伊地知の眼鏡に細く反射した。
「実際に、メールを送ったと思われる者が十数名、原因不明の体調不良を訴えています。被害が出ている以上、放置はできないとのことで、上から調査の通達が来ています」
「ふうん」
こういう都市伝説は、遊び半分で試す人間が必ず出てくる。
だから、馬鹿馬鹿しいほど広まるのも早い。