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【呪術廻戦/短編集R18】夜更けの花屋は恋を売る

第1章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる**


ロータリーに黒い車が滑り込んできた。
伊地知さんの車だ。



「さー、みんな車乗って」



先生の声に、虎杖と釘崎が車の方へ動き出す。
けれど、はまだ缶を見つめたまま、ぼんやりしていた。



「。ぼーっとしてないで、帰るよ」

「……っ、はい」



先生はの背中に手を添えて、車の方へ促した。
ほんの少しだけ、自分の側に寄せるみたいに。


それは周りから見れば、教師が生徒を車へ促す動きに見えるだろう。
でも、俺にはなぜかそう見えなかった。


俺もその後に続いていると、先生がこちらを向いた。
をからかっていた時と同じように、笑っている。


それだけで十分だった。
背中にぞくっと冷たいものが走る。
その瞬間、気づかざるを得なかった。









(……わざとだ)


最初から全部、わかってやったんだ。


俺がにレモンティーを買ったことも。
俺がそれを飲もうとしていたことも。
の意識が、数分だけでも俺に向いていたことも。


全部気づいた上で、の缶に口をつけた。
俺の目の前で。
これ見よがしに、自分の跡を残すように。



『だめだよ、恵。手を出しちゃ』



そう言われた気がした。


好きだと言うわけでもない。
恋人にするわけでもない。
それなのに、他の男が近づくことだけは許さない。


の気持ちを知っていて。
それでも、曖昧な距離のまま手元に置こうとしている。


車に乗り込む前、が先生を見上げるのが見えた。
その表情だけで、誰を意識しているのかなんてすぐにわかる。


そんな顔で、あの人を見るな。
違う……本当に嫌なのは、あの人を見ていることだけじゃない。


五条先生には見せる顔を、俺には向けないことだった。


俺が買ったレモンティーで、が嬉しそうに笑った。
それだけで、十分だったはずなのに。


が先生を見上げる目を、自分の手で隠してしまいたくなる。


もっと。
ほんの少しでいいから。


あの人じゃなくて、俺を見ろよ。



俺はもう、ただの同情で片付けられないくらい――

から目を離せなくなっていた。
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