第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
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二人が眠る高専の寮から遠く離れた、深く淀んだ山奥の廃寺。
じっとりと肌にまとわりつくような濃密な呪力の気配が、黒い泥のように床を這い回っていた。
ポタリ、ポタリ。
天井から滴り落ちる赤黒い液体。
それが床に血溜まりを作る中、暗闇の奥で何かがゆらりと蠢いた。
羽のような、ボロボロの着物のようなものを引きずりながら、それは首を不自然な角度で傾ける。
『……あ、ァ……』
人間の女に似た、けれど明らかに異なるその口元が、ひしゃげたように吊り上がった。
十年間、自分が縛り付け、ずっと見張っていたはずの『印』が。
今夜、ほんの一瞬だけ揺らいだ。
封じたはずの声が。
奪ったはずの声が。
別の誰かの名を呼んだのを、聞き逃すはずがなかった。
濁った両眼が、暗闇の中でぎらりと光る。
『アァ……ァ、ア……』
赤子の泣き声にも、鳥の呻きにも似た声が漏れた。
赤黒い血溜まりに、黒い羽が一枚落ちた。
水面が揺れた瞬間、姑獲鳥の背中が不自然に盛り上がり、裂けた背中から漆黒の翼が滲み出す。
姑獲鳥は翼をゆっくりと広げ、月明かりを塗り潰す。
『……みィ……つケたァ……』
『……ワたシノ……カわイい、こォ……』
そして、廃寺の闇を抜け、夜空へと飛び立った。
𓂃 君に響くカンパニュラ 𓂃
── to be continued.