第1章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる**
「」
気づいたら呼んでいた。
が振り返って、きょとんとこっちを見る。
「……伏黒くん?」
呼んだはいいが、何を言えばいいのかわからなかった。
見るな。
気にするな。
五条先生はああいう人だ。
どれも違う。
そんなことを言われたところで、慰めになるわけがない。
俺は少し迷って、自販機の方を見た。
「……飲み物、買うけど。お前もいるか?」
我ながら下手くそだった。
話題の逸らし方としても雑すぎる。
でも、これしか思いつかねえ。
「でも……伏黒くん、さっきも買ってなかった?」
「…………」
そうだった。
さっき買った缶コーヒーが、まだ右手にある。
開けてもいない。
何やってるんだ、俺は……。
「…………これは、買い間違えた」
苦し紛れにそう返すと、は可笑しそうに笑った。
「ふふっ。伏黒くんも、そんなことするんだ」
さっきまで泣きそうだった顔が、少しだけ和らぐ。
こんなことでも、ちょっとは意味があったらしい。
「……で、いるのか」
「じゃあ……このレモンティーにしようかな」
が自販機の前で、控えめにボタンを指差した。
俺はポケットから小銭を取り出して、投入口に入れる。
「あ、自分の分は払うよ」
が止めようとした時には、もうボタンを押していた。
しゃがんで取り出し口からレモンティーを取ると、が慌てたように財布から小銭を取り出した。
「いい」
「でも……」
「ついでって言っただろ」
缶を差し出すと、は申し訳なさそうに、それを受け取った。
「ありがと。今度は、私が払うからね」
「別にいい」
「よくないよ。伏黒くんにばっかり払ってもらうの、申し訳ないもん」
真面目だな。
レモンティー一本で、そんなに気にすることでもないだろ。