第1章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる**
「うんうん。いいねえ。青春だねえ」
五条先生がニヤニヤと笑って、俺を見る。
「恵、照れてる?」
「照れてません」
「素直じゃないね。本当は、と手繋げて嬉しいくせに」
「……っ、嬉しくないです」
反射でそう返してしまった。
(しまった……っ)
慌ててを見ると、さっきまでの笑顔が消えていた。
違う。
そういう意味じゃない。
嬉しくないわけじゃない。
いや、嬉しいとか、そういう話でもなくて。
ただ、五条先生に茶化されたのが嫌だっただけで。
と手を繋いでいることが嫌だったわけじゃない。
「……、いや……さっきのは」
待てよ。
嫌じゃない、なんて言ったら。
それはそれで、変な意味に聞こえないか。
くそっ。
この人が余計なこと言わなければ……。
五条先生を睨むが、先生はそんな俺を気にすることなく、白々しく首を傾げた。
「――ところで、二人ともいつまで手、繋いでんの?」
「「……っ」」
言われて初めて気づく。
も同じだったらしく、俺たちはほとんど同時に手を離した。
「ご、ごめんね」
「いや、こっちこそ……」
手のひらに、さっきまで触れていたの感触が残っている。
離したあとも、触れていた部分がなぜか熱い。
五条先生は、面白そうに俺たちを見比べていた。
本当に面倒くさい。
この人は、わざとやっている。
たぶん全部わかった上で、俺たちをからかっている。
入学早々、こんな担任に巻き込まれているんだ。
も俺と同じようにうんざりしているだろうと思って、彼女の顔を見る。
けれど、はほんのり顔を赤くしたまま、五条先生を見ていた。
からかわれているはずなのに。
その目は、嫌がっているようには見えなかった。
……変わったやつ。
こんな担任に振り回されて、どうしてそんな顔ができるのか。
その時の俺には、まだわからなかった。
が先生に向ける視線の、本当の意味を。