第1章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる**
「恵なら同い年だし、も聞きやすいでしょ。ね?」
「え、あ……」
は困ったように視線を泳がせた。
そりゃそうだ。
いきなり知らない男子を紹介されて、「こいつに教えてもらえ」と言われても、戸惑うだろう。
(仕方ない……)
五条先生に何を言っても無駄だ。
この人は、こうと決めたらこっちの都合なんてほとんど聞かない。
「……伏黒恵」
短く自己紹介を済ませると、は背筋を伸ばした。
「え、えっと……よ、よろしくお願いします、ふ、伏黒くん……!」
声が上ずっている。
緊張しているのが丸わかりだ。
「二人とも堅い堅い。はい、握手」
「は?」「え?」
言い返すより早く、五条先生が俺との手を掴む。
俺の手の中に、彼女の手が押し込まれた。
の手は、俺の手とは全然違った。
小さくて。
やわらかくて。
強く握ったら、簡単に壊れそうで。
(……っ、何考えているんだ、俺は)
すぐに手を引こうとしたが、彼女の方がぎゅっと握り返してきた。
「ご、ご迷惑をかけないように頑張ります! 荷物持ちでも、ぬるいお茶淹れるのでもなんでもしますから……!」
「……石田三成かよ」
思わず、素でツッコミを入れてしまった。
なんで初対面の同級生に、ぬるいお茶を淹れられなきゃいけないんだ。
「えっ、お茶嫌いですか? じゃ、じゃあ、お水、コーヒーとか……」
「そこじゃねえ」
は真剣な顔で、別の案を探している。
なんで、尽くす前提なんだよ。
なんだこいつ。
「わからないことがあったら、普通に聞け」
「は、はい……!」
「あと、敬語じゃなくていい。同い年だろ」
「あ……」
は少し戸惑ったように俺を見た。
けれど、すぐにこくりと頷く。
「うんっ。ありがとう、伏黒くん」
さっきまでぎこちなかった顔が、ぱっと明るくなった。
俺の目をまっすぐ見て、ふにゃりと笑う。
(……なんだよ、それ)
大したことを言ったわけじゃない。
そんなに嬉しそうにすることか。
不意に向けられたそれに、なんだか調子が狂う。
握られた手のひらが妙に熱くなった気がして、俺は視線を逸らした。