第1章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる**
𓂃 side:伏黒恵 𓂃
五条先生が、を連れてきた日のことは今でも覚えている。
「恵ー。ちょっとこっち来て」
訓練を終えて寮の自室へ戻る途中、先生がひらひらと手を振って俺を呼び止めた。
「……なんですか」
嫌な予感しかしなかった。
五条先生が妙に機嫌よく人を呼ぶ時は、大体ろくなことがない。
面倒な任務か、よくわからない頼みごとか……その両方だ。
仕方なく先生の方へ向かうと、その後ろに小柄な女子が隠れるように立っていた。
肩にかかる黒い髪。
緊張した顔。
先生の背中に半分隠れるようにして、制服のスカートをぎゅっと握っている。
目が合うとすぐに視線を逸らされて、また先生の後ろに隠れてしまった。
人見知りか。
それに、どう見ても普通の女子に見えた。
なんでこんなやつが、呪術高専なんかに。
最初に思ったのは、その程度だった。
先生は隣に立つ女子の肩に手を置くと、無駄に高いテンションで紹介を始めた。
「紹介しま〜す。今日から高専に入学した、二人目の一年生ちゃんでーす」
「……です。よろしくお願いします」
彼女は、礼儀正しく深々と頭を下げた。
「で、恵」
紹介を終えた先生が、今度は俺に話を振ってきた。
「も式神使いだから、色々教えてあげて」
「……は?」
思わず声が出た。
この時点で、面倒な流れになる予感しかしなかった。
「まだ実戦経験もほぼないし、自分の術式もあんまりわかってないんだよね。だから、先輩としてよろしく」
「いや、それは……五条先生の仕事じゃないんですか」
教師が、生徒を指導する。
術式がわからないなら、なおさら。
それを俺に丸投げするのは、どう考えてもおかしい。
「もちろん僕も指導するよ?」
「なら――」
「残念ながら、僕は多忙でね。それに、恵との術式は、相性良いと思うし」
「……」
出た。
この人はいつもそうだ。
もっともらしい理由をつけて、面倒なことをこっちに投げてくる。
相性が良いとかなんとか言っているが、本当かどうか怪しい。
半分くらいは、自分が楽をしたいだけなんじゃないかと思う。