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【H×H イルミ】黒と白のアリア

第19章 束の間の休符


劇場裏の石畳には夜露が降りていた。

人気はない。石壁の際には手入れされていない資材が積まれ、傍から草が伸びていた。


呼び出された場所へ足を踏み入れると、そこには見覚えのある三人の男が立っていた。

宮廷楽団の団員。
その中でも、特に出来の悪い連中だ。


イルミの視線が一度だけ周囲を流れる。

石壁と路地の幅。
男達の立ち位置。

正面に一人。
右手側に一人。
壁際にもう一人。
三人とも僅かに距離を空けている。

相談を持ち掛けるには不自然な配置だった。


「何?」

イルミは無表情のまま尋ねた。

男の一人が前へ出る。
酒臭い息が漂った。

「もう我慢できねぇんだよ」

他の二人も続く。

「殿下をたぶらかしやがって」

「天才だかなんだか知らねーが、調子に乗るなよ、青二才」

三人は資材の中から木の棒を引き抜いた。
相談など最初から嘘だったらしい。

イルミは呆れたように呟く。


「だから?」


その一言で男達の顔色が変わった。

「舐めてんのか!」

正面の男の手が伸び、胸ぐらを掴んだ。その力に逆らうことなく、イルミが後ろへ倒れる。

予想外の抵抗の無さに体勢を崩し、
胸ぐらを掴んだまま、男は前のめりになる。

「がっ――」

跳ね上がったイルミの脚に、腹を蹴り抜かれた男の身体が宙を舞う。



風を切る音がし、そちらへ視線を向けると二人目が棒を振り下ろす。

地面を転がるように身体を捻るイルミの脇を、棒が激しく叩いた。

石畳に火花が散る。

地面に片手をついたまま、もう片方の手が懐からナイフを抜く。
銀色の軌跡が夜気を裂いた。

「――っ」

男の悲鳴が小さく漏れる。

「……ひっ!」

ナイフは目を潰さず、その下を掠めただけだった。頬から目尻まで赤い線が走る。

「うわぁぁ」

男は棒を落とし顔を押さえて蹲った。


「く、くそっ!」

三人目が怯みながらも地面に伏した格好のイルミに突っ込んでくる。

木の棒が横薙ぎに振られた。

イルミは起き上がる勢いのまま、僅か半歩前へ出る。

棒が空を切り、男は勢い余って肩から壁へ突っ込んだ。

「痛えっ」

叫んだ瞬間にはもう目の前に黒髪があった。

ナイフが振り上げられ男の顔が青ざめる。

次の瞬間。

ドンッ――!!

刃が首の横の壁へ深々と突き刺さる。

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