第20章 王女のアリア
半泣きで廊下を走っていくその背中を見送りながら、イルミは小さく呟いた。
「それにしてもさ……なんで親父は、お前みたいなのを俺に寄越したんだろうね」
執事はぴたりと足を止めた。
そしてゆっくり振り返る。
「その件につきましては、シルバ様よりお言葉を預かっております」
「へぇ」
「イルミ様と長期間共に過ごすに当たりまして、私のような人間ではないと務まらないとのことでした。シルバ様曰く、『お前くらい鈍い方が長生きする』とのことで!」
「どういう意味……?」
「私にも真意はわかりかねます」
「……なるほど」
「分かったんですか?」
「いや」
「ですよね〜」
執事は照れたように舌を出した。
「早く行け」
「はいっ!」
今度こそ執事は夜の王都へ飛び出していった。
静かになった廊下にイルミだけが残される。
「……変なの」
誰に言うでもなく呟いて、イルミは自分の部屋へ戻っていった。