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【H×H イルミ】黒と白のアリア

第19章 束の間の休符


舞台袖へ入ったところでイルミは足を止め、エレオノーラへ視線を向ける。

「……一体、何?」

エレオノーラが静かに振り返る。
先ほどまでの柔らかな笑みはもうなかった。

「先生」

その声には隠しきれない心配が滲んでいた。

「お顔の色が優れません。少しお休みになられた方がよろしいのではありませんか?」

イルミは首を横へ振る。

「そんなこと言ってる場合じゃない」

返事も待たず、舞台へ向かって歩き出す。

「今音を揃えておかないと、本番で転けたら困るから」

その言葉へ重ねるように、一歩前へ出たのはウイングだった。

「ゾルディック先生」

眼鏡の奥の視線はまっすぐイルミを見据えている。

「ここは私が代わりに引き受けます。リハーサルは止めません」

「……」

「先生の指示は、すべて譜面へ書き込んであります。皆さんにも伝わっていますので、ご安心ください」

イルミはしばらく黙っていたが、やがて小さく口を開く。

「ウイング」

「はい」

「……何のため?」

その問いに責める響きはない。ただ、純粋な疑問だった。

「そんなことして、アンタに何のメリットがある?」

ウイングは目を伏せて、静かに答える。

「オペラと貴方の人生」

「私はどちらも守らなければなりません」

「……なんで?」

「教師だからです」

その言葉だけは、一歩も譲る気がないというように、ウイングは静かに言い切った。

「優れた作品を残すことも大切です。ですが、そのために才能ある人材を失うことは、教育者として認められません」

「完成したとしても、その代償に貴方が壊れれば失敗です」

イルミはウイングの視線を受け止めたまま、静かに返す。

「ここは学校じゃない」

「そうですね」

ウイングはあっさり認めた。
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