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【H×H イルミ】黒と白のアリア

第19章 束の間の休符


翌日。
リハーサルは少しずつ形になり始めていた。
それでも、弦が重なる一節だけが僅かに噛み合わない。

「止めて」

指揮棒が静かに止まり楽団員たちは一斉に顔を上げた。

イルミは指揮台の譜面へ視線を落としたまま、その箇所を確認する。

「コンマス」

「はい」

「このフレーズは変える。今から言うから書いて」

コンサートマスターは慣れた手つきでインクを吸わせた羽根ペンを構える。

「二小節目、第一ヴァイオリンは八分音符を二つ削る。代わりに三拍目から旋律を受けて――」

ペンが譜面を走る。

「ヴィオラは一拍目を保続音。チェロは二拍目から同音で支える」

「……はい」

「ホルンは休符を一拍延ばす。木管はそのままでいい」

コンマスは一つ一つ復唱しながら書き込んでいく。

「以上」

ようやくイルミは譜面から目を離した。

「全員、今の改訂で合わせる」

指揮棒が静かに持ち上がった。



その時だった。

「先生!」

一人の団員の声が上がる。

「待ってください」

リハーサル室が静まり返る。

「……何」

「なぜ、また改訂されるのですか?」

イルミの表情は微動だにしなかった。

「音が揃わないから」

「……?」

「揃わないと雑音になる」

「それだけ」

団員は首を横に振った。

「……私には、それが分かりません」

イルミは初めて僅かに眉を顰めた。

「俺には雑音だから」

一瞬、沈黙が落ち、質問した団員は譜面をぎゅっと握り締めた。


「それでも……」

声は震えていた。

「私は、このフレーズが好きです」

「だから、このまま弾きたいんです」

すると別の席からも声が上がる。

「私もです」

「ここを弾くために練習してきました」

「改訂しないでください。」

あちらこちらから、小さな賛同の声が重なっていく。
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