第18章 生まれ落ちた世界 ※残酷表現あり
先ほどまで文字を追うだけだったエレオノーラの視線が変わっていた。
一行一行が、父や兄たちの背負うものと重なって見える。
父が建国史を渡したのも、「王族なら、人間がどこまで残酷になれるかを知らずに判断してはならない」という教育だったのだ。
いつしかこの部屋では、それぞれが違うものと向き合っていた。
一人は、国家勝利祝典のための音楽に。
一人は、今建っている国の歴史に。
エレオノーラは、自分もまた王家の一人として、その重さから逃げてはならないのだと知った。
けれど同時に考える。
もし自分が王位継承者、あるいは王子として生まれていたなら、父はきっとこの本だけでは済まさなかった。
軍略も、外交も、人を死地へ送る決断も学ばせただろう。それが王家の務めだから。
けれど自分は違う――自分にはまだ、音楽という逃げ場がある。
そしてイルミを見る。
呼吸をするように作曲し、眠気と戦いながら五線譜を埋め、楽団をまとめる。イルミは優しいから音楽を選んだのではない。
また兄達は残酷だから戦場へ向かったのでもない。
人は、生まれ落ちた世界の中でしか息ができないことがある。
その宿命を背負いながら、それでも自分の役目を果たそうとする。
エレオノーラは、机に向かうイルミの横顔を静かに見つめた。