第18章 生まれ落ちた世界 ※残酷表現あり
読み進めるほどに、エレオノーラの胸が重くなる。
どのように反乱を鎮圧したか。
誰を見せしめに処刑したか。
国を守るため、誰を切り捨てたのか。
(……こんなことまで)
エレオノーラには「正しい」とも「間違っている」とも断じることもできず、ただ衝撃が襲った。
血生臭さそのものにではない。
人間が国を護るためになら、ここまで合理的になれてしまうことに。
ルドルフ大王は、なぜこの本を読めと言ったのだろう。
グランツェ王都の綺麗な建物に美しい庭園。宮廷音楽と舞踏会。
その裏側には、誰かの犠牲と、誰かの苦しい決断が積み重なっている。
綺麗なものだけでは国は成り立たない、その現実から目を逸らしてはならない——。
そんな父ルドルフ大王の思いが、この一冊に詰まっているように感じられた。
エレオノーラは静かにページをめくる。
『敵兵二百十七名を捕縛。労役に従事させた後、一部を処刑した』
『疫病の拡大を防ぐため感染地域への出入りを禁じ、従わぬ者は拘束した』
『飢饉の年、備蓄を守るため一部地域への穀物供給を停止した』
父の姿が浮かぶ。
兄たちの横顔が浮かぶ。
いつも穏やかで優しく、そして強く、自分を甘やかしてくれる家族。
けれどきっと、その笑顔の裏で誰にも見せない苦しい決断を、幾度となく下してきたのだ。
(……これがお父様たちの向き合っている世界)
更にページが捲れ、内容がまた少し変わる。
『王暦三十七年
。敵国との講和交渉において、ルドルフ大王の孫、アルフレート公子が人質として差し出された。公子は帰国することなく病没。講和は成立し、以後二十七年間、両国の戦は止んだ。
王暦六十一年。
第二王女マリアは隣国への政略結婚を命じられた。王女は婚儀の翌年に没した。両国の同盟は五十年続いた。
王暦八十四年。
王太子暗殺未遂事件発生。首謀者を捕縛できず。王家への疑念を鎮めるため、関与を疑われた王族二名は自ら裁きを受け、爵位を返上した。
王暦百十二年。
王弟エルンストは国境防衛の指揮を執る。救援を待てば王都は陥落すると判断され、増援は送られなかった。
王弟以下三千百二十名戦死。王都は守られた。
王暦百二十四年。
王族の血を引く者一名が敵国に捕らえられる。身代金の要求は退けられた。
国庫を開けば民の飢餓を招くと判断されたためである。人質は帰還しなかった。』
