第18章 生まれ落ちた世界 ※残酷表現あり
エレオノーラは読み始める。
建国の年。
国境線の変遷。
穀物の収穫量。
税制の改定。
飢饉の死者数。
戦争で失われた兵の数。
ただ事実だけが、延々と記されていた。
「……ふぁ」
イルミがまた欠伸を漏らす。
「先生!」
「大丈夫」
ペンは止まらない。
「続けて。無いよりはいい」
「はい」
更にページを捲る。
そこから先は、少し様子が変わった。
反乱軍の処遇。
捕虜の扱い。
拷問の記録。
処刑方法。
淡々と書かれたその内容に、エレオノーラの声が思わず止まる。
(……な、なんなの? …これは?)
恐る恐るイルミを見る。
イルミは欠伸を噛み殺して、ペンを走らせながら言った。
「今の」
「はい?」
「そこ、もっと読んで」
「え……?」
「ちょっと眠気がマシになった」
黒い瞳は譜面から離れない。
「……」
「眠気覚ましに丁度いい」
「……わかりました」
エレオノーラは再び読み始めた。
『反乱の首謀者においては、熱した鉄を用いる刑が執行されたとある。その目的は見せしめであり、反乱の再発を防ぐためであった』
『三日三晩眠らせず尋問を続け、その反応を記録した』
『牢では水だけを与え、衰弱を待って尋問を再開した』
『捕虜の爪を一枚ずつ剥ぎ、自白を求めた』
『反乱に加担した村は焼き払い、生き残った者は他領へ移住させた』
『家族の前で処刑を執行し、再び反旗を翻さぬよう戒めとした』
『裏切りが判明した者は舌を切り落とし、以後、公の場で語ることを禁じた』
目で追った文字を、ただ声に変換していった。
そのつもりだった。
「……『裏切りが判明した者は舌を切り落とし――』」
なのに、思わずエレオノーラの声が止まる。
そのまま本を閉じようとした時だった。
「……そこ、続けて」
「先生、……気分悪くなりませんか?」
「え?」
本当に、何を心配されているのか分かっていないような声だった。
「いえ、……読みますね」
「うん。お願い」
エレオノーラは小さく息を吸い、また本を開いた。
父から託された戦争記録。
まさか眠気覚ましに読む日が来るとは思わなかった。
(イルミ先生って、たまに本当に変な人だわ……)