第18章 生まれ落ちた世界 ※残酷表現あり
数分後。
「……くそ」
ペンが止まりそうになる。
「先生、大丈夫ですか?」
「ねえ」
イルミは顔も上げずに言った。
「なんでもいいから話しかけて」
「え?」
「なんでも」
「そ、そうですね……」
エレオノーラは辺りを見回した。
「では、何か物語でも――」
書棚へ向かう。
しかし並んでいる本は驚くほど少なかった。
聖書。
讃美歌。
そして、分厚い『グランツェ王国建国史』。
「では、聖書でもお読みしましょうか?」
「お願い」
エレオノーラは本を適当に開き、朗読を始めた。
「……祭礼衣は白糸六束、金糸二束、深緑の染糸一束を用いて織ること。縁飾りは三百二十針を下回ってはならず――」
しかし。
「……ダメだ」
イルミが首を振る。
「それ、余計眠くなる」
「あ……そうですよね」
エレオノーラは聖書を閉じて、書棚へ戻す。
「讃美歌……は、歌ったら先生のお仕事の邪魔になりますものね」
「うん」
残る一冊は、古びた革装丁の本。
「では……建国史を」
その本はエレオノーラ自身も持っていた。
まだ文字を覚えたばかりの頃、ルドルフ大王から、『王族なら読んでおけ』そう渡された本だった。
けれど、一度も開いたことはなかった
「つまらないかもしれませんが……」
「頼むね」