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【H×H イルミ】黒と白のアリア

第18章 生まれ落ちた世界 ※残酷表現あり


その時、部屋の脇へ控えていた従者が一歩前へ出る。

「殿下、そろそろです。宮廷に戻り、お休みになられるお時間です」

「ええ……でも」

エレオノーラはイルミを見た。

机に向かうイルミは、今にも瞼が閉じそうになりながら、それでも必死に譜面へ音符を書き続けている。


ふと、その黒い瞳がこちらを向いた。

「もう、……戻る?」

その一言は、どこか子どものように頼りなく聞こえた。

「……今一人になったら落ちそう。落ちたら朝だ。それで、そのままリハ行くと、流石に全部飛ぶと思う」

エレオノーラは一瞬だけ息を呑む。

「殿下!」

従者が促す。 

だが、エレオノーラは静かに振り返った。 
 
「私は今夜はこちらで先生のお手伝いをします」

「しかし――」

エレオノーラは凛とした声で続ける。

「このオペラはグランツェ王国の国家祝典です。先生だけに背負わせる仕事ではありません」

従者はなお何か言おうと口を開く。
しかし、その前にエレオノーラはきっぱりと言った。

「先生を皆で支えます。これは王女としての命令です」

「……はっ! 承知いたしました」

「貴方は先生に冷たい飲み物をご用意してください」

「かしこまりました」

従者は深く頭を下げ部屋を出ていった。



エレオノーラはイルミに向き直り柔らかく笑った。

「さあ、先生。今夜は頑張りましょうね」

イルミもホッとしたように少しだけ口元を緩める。

「うん。ありがとう」

「お礼には及びませんわ」


イルミは再び譜面へ向き直った。

「俺は頭の中の旋律を書き写していくから……」

ペン先を走らせながら言う。

「寝そうになったら叩き起こして」

「承知いたしました」
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