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【H×H イルミ】黒と白のアリア

第18章 生まれ落ちた世界 ※残酷表現あり


まだ夜は始まったばかりだった。

部屋にはインクの匂いと、楽譜紙の擦れる音だけが静かに響いていた。

蝋燭の火が小さく揺れる。

譜面に向かっていたイルミの頭が、不意にがくりと落ちた。

「……」

数秒。

そのまま動かない。

黒い髪が顔を覆うように垂れ下がり、人形のようにぴくりとも動かなかった。
やがてゆっくりと顔が持ち上がる。髪がさらりと左右へ流れ、その奥から黒い瞳だけが静かに現れた。

何事もなかったようにイルミは譜面へ視線を戻し、またペンを走らせる。


それを見ていたエレオノーラは、思わず筆を止めた。

「先生、あの……大丈夫ですの?」

「うん? 頑張ってるよ。もうじき、あと一晩もあれば書ける…」

「いえ、曲の方じゃなくて……」

「平気、平気」

イルミは軽く手を振ると、再び譜面へ向かった。

エレオノーラもそれ以上は何も言わず、清書を続ける。

部屋にはまた、ペン先が紙を走る音だけが戻った。



しばらくして。

「……やばい」

不意に、静かな部屋へイルミの声が落ちた。

思わずエレオノーラは顔を上げる。

「……イルミ先生? どうしました?」

イルミはペンを握ったまま、大きく欠伸を漏らした。目尻に涙が滲み、黒い瞳がうっすら潤んでいる。

「眠すぎる……。眠い」

「先生。それでは、お休みになられたらいかがですか?」

「いや、それが……」

イルミは片手で頭を抱え、小さく俯いた。

「曲が頭の中で完成してる。今書き写さないと、寝た瞬間に消える」

「そ、そうですか……」

エレオノーラも困ったように眉を下げる。

「もう少し、一晩あれば書けそうなんだけど」

「困りましたね……」

「今寝たら終わり。全部消える」

「うーん……」

「……駄目だ」

また一つ、大きな欠伸が漏れた。
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