第17章 探究者達
瞬間、和音が落ちる。
エレオノーラは心臓の鼓動をすぐに押さえ込み、その響きへ自分の清書した通りの旋律をそっと寄り添わせた。
頭の中で鳴らしていた音通りに。
イルミは伴奏を一巡させると、演奏を止めた。
「もう一回」
「はいっ…!」
今度は少し伴奏の形を変えた。
「もう一度」
部屋に同じ数小節が何度も繰り返し響いた。僅かに伴奏を変えながら確かめるように。
やがてイルミの手が止まる。
エレオノーラは息を潜めた。
イルミは譜面を見つめたまま、小さく呟く。
「……やっぱり」
譜面から目を離さない。
「こっちの方がいい」
「え……?」
「原案じゃなくて、こっち。何度弾いてもこっちの方がいい」
エレオノーラは目を瞬かせる。
「でも、それ……私の書き間違えで」
「いや」
イルミはペンを取りテーブルに残されていた原案に一本線を引く。
「間違えたんじゃない」
「……先生?」
「エレオ、君は……」
イルミは清書をエレオノーラに返した。
「作曲したんだ」
胸の奥へ、イルミの一言が静かに落ちた。
エレオノーラはその言葉を噛み締めるように俯き、胸の前でそっと受け取った楽譜を握りしめた。
その背後で――イルミは一瞬、後頭部へ手を当てる。
(……?!)
違和感は泡がぱちんと弾けるように小さく壊れて、すぐに消える。
イルミはそのまますぐに歩き出し、また机に戻った。