第17章 探究者達
写譜師が去ってゆき、またエレオノーラは楽譜に向かおうと椅子を引く。
すると、不意にイルミが立ち上がり、エレオノーラのテーブルまで歩み寄ると、清書済みの紙の束を手に取った。
「確認する……」
イルミはそのまま歩きながら譜面を捲り目を通していく。
譜面に目を落としたまま、イルミは部屋の中央のソファーの背に凭れる。
そして、エレオノーラの清書した譜面の一枚で動きが止まり、視線が何度か上下する。
「……先生?」
エレオノーラがおそるおそる声を掛けた。
「……」
「どうなさいました?」
「ここなんだけど」
イルミは一箇所を指差す。
「はい……何か違っていましたか?」
「うん。……いや」
少しだけ考え込む。
「……ちょっと」
そう言い譜面を手に立ち上がる。
イルミの向かった先は部屋の隅に置かれたフォルテピアノだった。
エレオノーラは思わず目を見開く。
(イルミ先生……?)
作曲中にイルミが鍵盤に触れる姿は殆ど見ていない。
イルミは静かに椅子へ腰掛けた。
「このリード」※
譜面を示す。
「エレオが書いた通りに歌ってみて」
「え?」
「他のパートは俺が弾く」
「……はい」
エレオノーラは答えてから、小さく息を吸う。
(イルミ先生が……弾く)
目の前で――。
スッと細く長い指先が鍵盤へ伸ばされる。黒髪が僅かに揺れ、エレオノーラは思わず息を呑んだ。