第2章 予定は未定で仮定の話し
カチッと着こなしたスーツに、洒落っ気など皆無な見た目。ペンを走らせた用紙には彼女の性格が如実に現れる。
近寄り難い雰囲気を纏っているのかと思いきや、その実人間関係は良好。表情のバリエーションが人より僅かばかり少ないだけで、決して無愛想でも不貞腐れているわけでもない。
「これ可愛い」
「……うん、感性なんて人それぞれだもんな」
「え、可愛くないですか?」
「カワイイトオモイマスヨ」
「おもっきり嫌そうな顔してますね」
望月が手に取ったマグカップには、転写された全身タイツのおっさんが数人。虚無とも達観してるともとれる絶妙な表情が彼女の心を射止めたらしい。
なんの迷いもなくそのおっさん、じゃなかった、マグ2つをカゴに入れて、これから俺も毎朝使うことがこの瞬間決定した。
そんな独特のセンスを持つ彼女と、実は結婚しまして、いやほんと急ですいません。事務上の手続きでご迷惑をおかけするかもしれませんが宜しくお願いしますと、職場で頭を下げて回ったのはつい数週間前の出来事だ。
上司からは手放しで喜ばれ、裏腹に同僚は目ん玉が落ちたやつ数人、唖然と口を開けるやつ数人。色んな反応が返ってくる中、唯一幼馴染だけは1番冷静だった。
「そういや今度、研磨がメシ奢ってくれるらしい。結婚祝いにって」
「え!?変に気遣われてません?大丈夫です?あの人もそこそこ忙しいでしょ」
「まぁいいんじゃね?1日のうちの数時間ぐらい。アイツなりの気持ちだから受け取ってやって」
「あー、なら予定合わすんで分かったら教えてくださいね」
「りょーかい」
結婚祝いのごはん、かぁ……。
ぽつりとそう溢した彼女の口元は少しだけほぐれて、夢なのか現実なのか、曖昧な境界線の上に投げ出されたような、まだ実感が湧かないといった声色をしてる。
そりゃそうだ。俺だって自分が結婚したなんて微塵も腹落ちしていない。ノリで走ったあの夜を後悔してるかって言われたら、実際のところびびるぐらい後悔なんてなかった。