第1章 パニエに隠したデビルズ・テイル
「あーっと、その、一応聞くが、からかってる、とかではなく?」
「そんな風に見えます?」
「いや見えるもなにも、びびるぐらいいつも通りのお前だからすげえ混乱してんだけど」
「からかってないですし、一応気合い入れて告白しましたし、かなり緊張もしてますよ」
それは嘘でしょ。世間一般で言う一世一代の大イベントでは、そんな淡々と言葉を繋いで無表情に近い顔して言わないんだよ。唐揚げが好きなんです、と同じトーンで言われたのは後にも先にもこれが初めてだ。
「あのですね、望月に言ったかもしんないし、言ってないかもしんないけど」
「はい」
「俺は社内恋愛するつもりないんだよ。自分の中でそう決めてんの。だから、」
「なら結婚はどうです?」
「は?」
「結婚です。恋愛はダメなんですよね?」
「は?」
「いやだから、これならルール破ってないですよね?」
彼女の突拍子もない言葉は、まるで頭を鈍器で殴られたような衝撃だった。
この程度のアルコール量で酔っ払うタマじゃないが、やっとひと段落ついた仕事とそれまでの多忙さも相俟って、自分でも気がつかないほどに疲労が溜まっていたのか。もしかしたら酔いの回りが早かったのかもしれないと、そう思うには十分すぎるぐらい不可解だった。
だが、やっとこっちを見た望月が、飲んでも飲んでも顔色1つ変えない酒豪な彼女の頬が、ほんのり色づいてることに気づいて、その尋常じゃない度胸と賭けに潔ささえ感じてしまう。堅実が服着てるような望月から、こんな言葉が出るなんて誰が思うかよ。