第1章 パニエに隠したデビルズ・テイル
「赤葦は元気?」
「一応生きてますよ、アイツは私より多忙なんであんまり会えてはないですけど」
「相変わらず仲良しなこって。最初お前ら見たとき絶対付き合ってると思ってたわ」
「ええ!?赤葦と?」
「おう」
「私が?」
「そう」
「うわー、想像するだけで気持ちわるい無理」
「散々な言われようだなおい」
追加で注文した揚げ出し豆腐をつつきながら、お前の頭はどうなっているんだ、なんでそんな思考になるんだ、大丈夫か?みたいな冷めた視線を向けるが、割と噂になってたんだぞ?お前らが2年の時、夏の合宿で初めて顔を合わせた烏野の連中にも聞かれたぐらいだし、とは敢えて言わないでおく。
まぁ確かに、幼い頃から同じように育ってきたのなら自ずと兄妹枠に入るものなのかもな、俺の幼馴染は男だからよく分かんねえけど。
「散々でもなんでもいいですよ。それに私、好きな人いるし」
「あらら、そうなの?初耳なんですけど」
「言ったことないですもんね」
「付き合ってるとかではなく、好きな人?え、誰よ俺も知ってるやつ?」
恋バナは何も女子だけの特権じゃない。男だって興味もあれば仲の良いやつのそれなら尚更だ。あわよくば、誰なのか聞いてみたいと思うのも人間の本能だろ。好奇心の赴くまま、体ごと彼女に向き直る。どう吐かせてやろうか、にやける顔を隠しもしないで続きを待った。
「黒尾さん」
「はいはい」
「違います、呼んだんじゃないです」
「ん?ん?」
「だから、黒尾さんです、私の好きな人」
「………………は?」
くろおさんです、わたしのすきなひと。
黒尾さんです、私の好きな人、とは?
ゆっくりと、噛み砕く。
恥じらう素ぶりも見せずに、どこか一点を見つめたままけろっとした横顔から見えた唇は、確かにそう動いた。
数秒の沈黙。耳が拾って、頭で処理して漸く理解したタイミングで、吐き出された自分のため息には色んなものが乗っている。