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明日に編んだ舟[明日方舟]

第1章 月夜のアンコール


「こんばんは、ミス・インディゴ。あなたの光が美しいヒロインのようで、つい見とれてしまいました」
 シャレムは内心慌てながらも、口調は極めて落ち着いた、普段通りで話せたと思っている。シャレムは我ながら、演じることが板につき過ぎている、とどこか遠くで思った。
「光……この杖のことですか」インディゴは両手で抱えている杖へ目配せをした。「灯台守をしていましたから、海が近づくと使命感に駆られるようなんです」
 海。
 今ロドスは、これから来るだろう大いなる厄災のため、海へ向かおうとしていた。シャレムも海についてはあまりよくは知らなかった。なぜならテラでは、本物の海は恐れられていたからだ。
「使命感、ですか。それは、重くはないのですか?」
 それは素晴らしい、と言うつもりだったのに、シャレムはつい、自分の過去と重なってしまい、インディゴに問いかけてしまっていた。
 しかしインディゴは不機嫌な顔になるどころか、あまり変わらない表情のままうつむき加減になって、ゆっくりと口を開いた。
「重り……私にとっては、丁度いい重さかもしれません」それからふっと顔を上げ、インディゴは再びシャレムと目を合わせた。「もし何かに迷っていらっしゃるなら、私が光を照らしましょう。今日は満月ですが、それでも灯台には光が必要でしょうし」
 そこでようやく、シャレムはなぜインディゴが妙に気になっていたのかが分かり始めてきていた。初めて見た時から、彼女はずっとその杖で自分を照らしていた。屋内ではそこまで眩しくなかったにせよ、インディゴはその明かりで自らを目立たせるとか、美しく見えるように仕立てているのだとシャレムは思い込んでいたからだ。
 だがインディゴはあの孤独で恐ろしい舞台役者の一人とかではなく、誰かの導きのためにいつでも照らせるように杖を抱えているのだ。シャレムはそう納得した。
「それは素晴らしいことですね」
 社交辞令のような言い方になってしまったが、シャレムは心から素晴らしいと感じていた。
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