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明日に編んだ舟[明日方舟]

第1章 月夜のアンコール



〜シャレム目線〜

 シャレムは、ハーブティーを分け合ったフィディアの彼女のことを、妙に気になっていた。
 それがなぜなのか、この時のシャレムは分からずにいた。ただ、それを察したのかどうなのか、ドクターがポツリと零したインディゴの配属位置を聞いたシャレムは、満月の明かりが注ぐロドスの甲板へ自然と足が向いていた。
 闇夜に一つの杖の明かりのみで立つ彼女は、さながらここ一番重要なシーンを演じる舞台役者のようだった。シャレムは彼女の姿を一目見ただけで、美しいと一瞬足を止めていた。それから流れる風に靡く長い髪に目が奪われ、まだ自分との距離はかなりあるというのに、彼女の一欠片がここまで広がっているのではないかと錯覚してしまうようだった。
 ところがシャレムは、ここまで来たというのに急に物怖じをしてしまい、インディゴに声を掛けるかどうするか迷ってしまった。自分はたまたま、ドクターの執務室で会っただけのオペレーター。共に任務に出たこともないのにどのような話題で話を切り出すか悩みあぐねていたシャレムの視界の中で、唐突にインディゴはその場でしゃがんだのだ。
 なんだろうと注意深く彼女の足元を見やってシャレムは気づいたのだ。彼が、すぐそこにいるということに。
 シャレムはファントムに対して複雑な心情を抱いていた。ファントムは自分と似た境遇を持ってはいたが、自分にとっては逃避をしてなかったことにしたいものでもあった。だが同時に、ファントムは親友という一言では言い切れない強い絆があるのだとシャレムはどこかで感じていた。
 そんな彼がなぜインディゴのそばにいるのかと心配なのか不安なのか、または不審に思っているのかシャレムですら自覚出来ないまま事の結末を見守っていると、ファントムはとうとう姿を現さずに、ただ一匹の黒い猫を刺客かのように差し向けた。
「あら……? 迷子でしょうか」
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