第1章 月夜のアンコール
「あなたと同じものをお願いします」
インディゴは目の前の飲みかけのカップが、彼のものであると認識した。というのも、いつもは様々な人々で溢れて賑やかなドクターの執務室も、今日は彼一人しかおらず、静かだったからだ。
「分かりました」
その時彼が用意してくれたハーブティーの温かさを、インディゴはよく覚えている。それはもしかすると、ハーブティーを口にした時、ようやく彼の淡い色をした眼差しと視線が重なったからかもしれない。
「あなたとは、初めてお会いしますよね」
あまり人と話さずに生きてきたインディゴらしからぬ、一言だった。
インディゴは言った直後で、これは妙な話の切り出しだった、と反省した。だがインディゴはこれ以上になんと弁解したらいいか思いつかず、ただ静かに無言を貫き、ハーブティーをもう一口飲み込んだ。
ただその沈黙は、本当に短かった。
「失礼、まだ名乗っていませんでしたね」彼はとても紳士的に受け答えてくれた。「私はシャレム。このロドスで重装オペレーターとして働いている者です」
「重装オペレーター……でしたか」
そこで初めて、インディゴはシャレムという彼を頭の先からつま先まで観察し、ハッとしてカップを置いた。名乗られたのなら自分も名乗らなくては、とインディゴは焦ったのだ。
「私はアリア……ではなく、インディゴと申します。術師のオペレーターをしています」
うっかり本名を名乗ってしまいながらも、インディゴはどこかで、このシャレムという方は信頼出来るのでは、と思っていた。かつてどこかで騙し取られた自分がそう考えるのは、浅はかかもしれないが。