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明日に編んだ舟[明日方舟]

第1章 月夜のアンコール


「ただ……ファントムさんには会えませんでした」
 私は出来るだけ明るく言ったつもりだが、それでも母はピタリと一瞬手を止め、それからなんともなかったかのようにゆっくりと鍋をかき回した。
「それは、残念でしたね……」
 しばらくの沈黙。父も母も、あまり口数が多い方ではなかった。沈黙というより、静寂。私はそれが当たり前だったけれども、カノンさんみたいなずっとケンカしている家族も、爆発の絶えないロドスの賑やかさも、どちらもいいなと思っている。
「ですが、クッキーは受け取ってくれました」
 私が静寂を裂くように言っても、両親は共に怒ったり不機嫌になったりはしなかった。私もそんなに感情的に話すことはなかったけど、二人が自分を大事にしてくれていることは分かっていたから。
 だからこそ、そっと後ろから見守ってくれていたファントムさんも気がかりなのだけれども。
「それは良かったですね」
 とわずかに微笑んだ母の顔はやはり激しい感情の起伏はない。子どもの頃は、母が笑っているのか悲しんでいるのか分からなくて近づいて覗き込んだこともあったっけ。近くないですか? と言ってようやく見えた困惑の表情も、大人の私では出来ない積極性だ、と我ながら自分に関心していると、ふと母がこちらに顔を向けた。
「どうしたのですか、ルミー? 何か顔についていますか?」
 母が不思議そうに問いかける。私は慌てて顔を引っ込めた。
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