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明日に編んだ舟[明日方舟]

第1章 月夜のアンコール



〜再びルミー目線〜

「ただいま戻りました」
 ロドスに与えられた宿舎もあったが、私はやはり、両親と共に暮らしてきた自宅が一番落ち着く。二日後には、ロドス本艦はここを離れるから、いよいよ家を出なくてはならないが、私はもう少しだけ、両親のいるここにいたいと思っていた。
「おかえりなさい、ルミー。ロドスの入職挨拶はどうでしたか?」
 母はそう言ってキッチンからこちらを振り向いた。母の長い髪が後ろで結んだエプロンの紐に絡みついていて、私はそれを解こうと手にしていた杖を下ろした。
「お母さん、髪が絡まっています」
「あら、やはり絡まっていましたか」
 私は母の髪を解きながら、昔のことを思い出していた。私がまだうんっと小さかった頃、母に聞いたことがあったのだ。どうして髪を切らないのか、と。すると母は穏やかな笑みで「お父さんが綺麗だと言ってくれたから」と。それは父には秘密のことで、私もそのような話を父にしたことはないが、確かに、時折父が母の髪を耳に掛けてあげるひとときは、まるで映画のワンシーンみたいだな、と私は勝手に思っていた。
「解けました」
 私が紐から母の髪を解くと、豊かな亜麻色のそれがハラハラと伸びて整列した。私も母の髪の質は受け継いだが、髪の色はすっかり父の色に染まっている。いつだったか、母のような髪色が良かったと泣いて喚いた自分が少し恨めしいと思ってしまう。
「ありがとう、ルミー。……あ、今はルミエール、でしたっけ」
「コードネームはルミエールですが、お母さんはルミーで構いません」と答えながら私は母の横に並んだ。「入職挨拶は、滞りなく進みました。明日にはロドスに乗って出発します」
「そうですか」
 それは良かった、と母は鍋の中身をつついた。私はシンクにある洗い物をしながら鍋の中を覗き込んだ。今日は両親が好きな魚介スープのようである。もちろん私も好きな料理。透明なスープに、ホクホクとした芋の入ったそれを想像するだけで美味しさが伝わってくる。
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