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明日に編んだ舟[明日方舟]

第1章 月夜のアンコール


「……相変わらずだな、シャレム」
 なぜファントムはそう言いたくなったのか、自分でも驚きだった。かつて、どこか一線を引いていたような友人が、物理的以上に近いことに、ファントムの何かがそう発言させていた。
「ええ、お互いに」
 と静かに微笑むシャレムは、確かに自分とは全く違う人生を歩んでいる「幸福な劇」の一人であった。だが、シャレムのその含みがありそうな笑みも、こちらを気遣ってなのかあまり目が合わないのも、こうして対面するとファントムは改めて、これこそが我々の距離感なのだと思うのだ。
「ルミーはあなたの本当の名も知りませんし、あはなたの過去もよくは知りません。あなたはルミーのことを助けていましたが、あなたは自分のことを彼女に何も言わなくて良いのですか? ルシアン」
 穏やかに話すシャレムの言葉がだんだん耳障りになってきて、ファントムは彼から視線を外して遠くを見つめた。すると丁度シャレムの背後に人の姿を真似たミス・クリスティーンがひっそりと立っていて目配せをしながら微笑んだ。まるで次の言葉を促しているみたいだった。
「私の名は……」ファントムの言葉は朧げに口をついて出ていた。「君とドクターだけが、知っていればいい」
 ファントムは後ずさった。もう倉庫にいる必要がないと思ったからだ。ただ、自分にとっては眩し過ぎる彼女からの贈り物だけは手放せず、ファントムは常々、自分の発言と行動が矛盾していることを痛感するのだった。
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