第1章 月夜のアンコール
「……ここにいるのですか? 彼は」
ミス・クリスティーンを撫でる手はあまりにも優しいのに、そう放つシャレムの声はどこか淡々としていた。
「あなたがミス・ルミーにしてくれた数々のことには感謝しています。彼女はあなたに少しでも感謝を伝えようとしているし、尊敬もしています。あなたなら分かるでしょう」
それからすっとシャレムが立ち上がった。薄暗い倉庫の中、一人で静かに問いかける彼は、まるで主人公の演劇みたいだった。どうやらミス・クリスティーンはどこかの闇へ姿を消したようだ。
「彼女の描いた絵を見ましたか? ……ドクターの執務室に飾られている、真っ黒な絵です」
ファントムは静かにシャレムの言葉を聞きながら目を伏せた。どういう形であれ、彼女の中に自分の存在を仄めかしてしまったことが、大きな後悔としてファントムを覆い被さるからだ。ファントムは、たまらず返事をした。
「どうやら私という影が、無垢な観客を惑わせてしまったようだ」
背後から突然声を掛けたというのに、シャレムは特段驚きもせず、ゆっくりとこちらに振り向いた。
「そこにいたのですか、ルシアン」
シャレムはごく自然に、言葉を紡いだ。それは懐かしい友人に語りかけるようにも聞こえたし、ただすれ違った人に声を掛けたくらい遠い存在にも思えた。