第1章 月夜のアンコール
〜ファントム目線〜
ファントムは途方に暮れていた。手には二袋のラッピングされた包み紙がある。
「何を迷っているの?」
そこに音もなくミス・クリスティーンが近づいてきてファントムに問いかけた。ファントムはそれでも黙り込んだ。
「今の貴方の感情は非常に興味深いわ」
食べてもいいけれど、と言いながらミス・クリスティーンはファントムから感情ではなく、その手にある「猫用のクッキー」を取り上げただけだった。
「あの子、私のことを今でも普通の猫だと思っているのかしら?」
と言いながらも、ミス・クリスティーンはさぞ楽しげにその二本の尾を優雅に揺らした。
「君へ最大級の敬意を表しているのだろう」
ようやくファントムがミス・クリスティーンを見つめ返すと、ルミーからもらったクッキーを食べ終わったようで、包み紙ごと跡形もなくなっていた。
それからミス・クリスティーンは猫のような瞳で「食べないのかしら?」と言いたげにファントムに問いかけるのだ。
「……私は」
言いかけた直後、バタンと勢いよく扉が開いた。ファントムは急いで倉庫の影へと身を隠したが、ミス・クリスティーンは平然と尾をゆっくり揺らしながら振り向いた。
「ニャア」
「こんばんは、ミス・クリスティーン」
ミス・クリスティーンの鳴き声に応じて膝をついたのは、他でもない、シャレムだった。ファントムは、だからこうして身を隠したが、シャレムにはもう全てを見抜かれているのだろうということも分かってはいた。