第1章 月夜のアンコール
だから私は、ロドスの中で一番暗いところ……人気のない倉庫の隅の暗がりに向かって手を合わせて祈った。
「私の影の先生……いいえ、ファントムさん。私にとって貴方はいつまでも温かなヒーローでした。今でもそうです。いつか、ロドスのオペレーターとなった日には、貴方に感謝の言葉を届けたいと思っていました。どうか、一度だけでも私に会って頂けませんか……?」
それは祈りというより願いだった。ただ、そう言葉にすることで、私がなぜロドスのオペレーターとなったのか、視界がますます開けていく感じがして、お母さんが照らしてくれる光のように気持ちが明るくなった。
「……なんて、お祈りして私のワガママに付き合わせる訳にはいきませんね。だけど、ファントムさんのために焼いたお菓子がありますので、ここに置いておきます。ミス・クリスティーンにはこちらのをあげて下さいね」
果たしてファントムさんがこの声を聞いているかどうかも分からないまま、私は紫色の包み紙でラッピングしたクッキーをそばの棚に置いた。もし誰にも気づかれていなかったら、あとで回収して自分で食べようと思って。
私はその後、ロドスの支援部でお手伝いをしに行ったので、クッキーがどうなったかは分からない。ただ、夕食前にその倉庫へ向かうと、クッキーも包み紙も、どこにもなくなっていたことだけは今でもよく覚えている。
(ファントムさんが食べてくれたらいいな)
私は心のどこかで、ひっそりとそう思いながら、食堂へ向かった。