第1章 月夜のアンコール
で、ようやく絵の話のことね。あの絵は、お父さんとお母さんと一緒に湖畔へピクニックに行った時に描いた絵なの。お父さんもお母さんもいつもはロドスで任務に出ていたから、久しぶりに三人揃って出掛けることに、私は誰よりもウキウキしていたと思う。
湖畔では、お母さんが用意してくれたカラフルなお弁当を食べたり、お父さんと一緒にボール遊びをして過ごしていた。ただ、お父さんが突然、ここにいなさいと言い残してどこかに行ってしまったから、だんだんつまらなくなって。お母さんのところに戻ろうと思ったんだけど、その時綺麗な蝶が飛んできてね。蝶を追いかけている内に森の中で迷子になってしまったことがあったの。
だけど私は、森の中の暗がりを怖いと思ったことはない。お母さんに教えてもらったアーツで辺りを照らしながら歩いていたら、どんなに照らしても光らない影があった。不思議に思った私はその影に近づいて(アーツの光は消して)こう聞いたのをよく覚えている。
「影の先生?」
するとビックリ。私の真後ろに急に影の先生、ファントムさんが現れたのだから。
「後ろには気をつけるべきだな、月明かりの娘よ」
思えば私はいつも、ファントムさんにそういった冷ややかな言葉を投げつけられていた。だけど私は、もう何度もファントムさんに助けられていたから、全然怖くなかった。むしろ会えて嬉しかったから、私はポケットに隠していたお菓子をファントムさんに差し出した。
「ママに、影の先生にお礼しなさいって言われたから、いつも持ち歩いていたの。……あ、割れちゃってるけど美味しいから大丈夫だよ!」
自分の好きな色の袋に包んだクッキーは、昨日お母さんと焼いたものだった。もちろん、ミス・クリスティーン用に砂糖を使わないクッキーも用意していた。