• テキストサイズ

明日に編んだ舟[明日方舟]

第1章 月夜のアンコール


 最初は、木陰が揺れただけなんだと思っていた。なのになぜか子どもながら直感が働いて、その木陰に近づいたの。すると突然背後から声が飛んできたのよね。
「その先へ進むな」
 私は驚いて振り向いた。そこには、黒いマントを羽織った影の先生……ずっと後になって、彼がファントム、またはトラゴーディアさんだったと知るのだけれども。ファントムさんはそうやって、影から私の危険がないようにいつも見守ってくれていたみたい。木陰の縁には狭い排水溝があって、子どもの私ならすっぽり嵌って出られなくなってしまいそうなくらいの深さがあったの。
 そういったことから、私はすぐにお母さんにこの話をしていたと思う。お母さんはその影の先生が誰なのか知っていたのか今でも分からないんだけど、助けてくれたのならお礼をしなくてはなりません、次に出会ったらお茶かお菓子を渡してあげてくださいねって私によく言っていた。
 だけどもお父さんは、この話をしてすぐに誰のことか分かったのね。引きつったような、それこそ複雑みたいな表情で、そうでしたか、無事で何よりです、しか言わなくて。でも当時の私には、お父さんの事情なんて少しも知らなかったから、影の先生は、きっとクリスマスの夜に来るサンタさんみたいなもだと思っていたわ。だからクリスマスの夜には、影の先生と一緒に遊びたいって願い事を書いてファントムさんを困らせちゃったんだろうな。ああ、いや、でも結局一緒に遊んだのはファントムさんとじゃなくて、ミス・クリスティーンだったんだけどね。ファントムさんが来なかったことで泣いたりしたのかって? どうだろう。覚えてないけど、ミス・クリスティーンがいたから、楽しかった記憶はあるんだけどな。
/ 30ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp