第1章 ひとりぼっちの居場所
猫又は、ゆっくりとヒスイを見下ろす。
「お前、“何を使って人になってるか”分かってるのかい?」
「……力、でしょ」
「違うね」
ぴしゃりと否定された。
「命さ」
空気が、凍る。
「お前はまだ未熟だ。だから余計に削れる。長く保てば保つほど、削れていく」
「……」
「人の姿でいる時間。それ全部、“寿命の前借り”だよ」
ヒスイの喉が、ひくりと鳴る。
「……でも、触れたい」
それでも、言った。
迷いはなかった。
「声を、聞きたい。名前、呼ばれたい」
猫又はしばらく黙っていた。
やがて、小さく息を吐く。
「……愚かだねぇ」
優しい声音だった。
「でも、猫ってのはそういう生き物か」
ヒスイは顔を上げる。
「もうひとつ教えてやる」
猫又の目が、暗く光る。
「神様はな、拾ってはくれるが、“選びはしない”」
「……?」
「撫でるだろうさ。優しくもする。だがそれは――」
少し、間を置く。
「“誰にでもできる優しさ”だ」
その言葉は、やけに重かった。
「お前が特別だからじゃない」
ヒスイの胸にじわりと何かが広がる。
痛みか、不安か、それとも――