第1章 ひとりぼっちの居場所
夜の神社は、昼よりも静かだった。
風が鳴く。木々が揺れる。
その奥で、ひとつだけ異質な気配がある。
「……来たか、小僧」
低く、しわがれた声。
ヒスイはゆっくりと足を進めた。
社の裏。苔むした石の上に、それはいた。
二本の尾を揺らす、古びた猫。
――猫又。
「遅いじゃないかい。あの“神様”にでも見惚れていたか?」
「……」
図星だった。
ヒスイは何も言えず、ただ目を逸らす。
猫又はくつくつと笑った。
「分かりやすいねぇ。目が変わってる」
「……目?」
「そうさ。“帰る場所をなくした獣の目”から、“縋るものを見つけた目”にね」
ヒスイの胸が、わずかに痛む。
「……あの人、あったかい」
ぽつりとこぼすと、猫又の笑みがほんの少しだけ消えた。
「……ああ、だろうね。神様ってのはそういうもんだ」
「神様……」
あの男が。
あの手が。
あの声が。
「――だったら、なおさらだ」
猫又の声が、低く落ちる。
「近づきすぎるなよ」
「……どうして」
すぐに返した。
考えるより先に、言葉が出た。